わたし好みの新刊 2016年8月
『干したから・・・』 森枝卓士/写真・文 フレーベル館
表紙一面に,いろんな干物(ひもの)が並ぶ。干した〈宝もの〉がずらりと並ぶ。
著者の森枝卓士さんは,今までにも『カレーライスがやってきた』(福音館書店)や
『食べているのは生き物だ』(福音館書店)など,主に東南アジアの食文化を写真で
紹介しているカメラマンだ。今回も,世界の干物文化を豊富な写真で伝えている。
最初に日本での干物がいくつか紹介される。トマトもレンコンもしいたけもみんな
しわしわ。つづいて,チリ,メキシコ,韓国などでの「しわしわ」も出てくる。
「しわしわ」は,野菜だけかと思いきや魚の干物もある。世界には,カエルやコウ
モリの干物もある。ここで一ページ分とって「どうして干すのだろう?」と問いか
けている。子どもはなんと答えるだろうか。重さを比べると,干す前と干した後と
はずいぶんと重さが違う。干すと「水分」がぬけ、くさりにくくなる。そういえば,
台所の食材を見てみると,寒天,にぼし,千切り大根など,意外と干物だらけ。干
物があるから,季節に関係なく,いつも必要に応じて食べられる。
本の中程からは,世界の干物が次々と登場してくる。ラオスでは,バナナを干して
干しバナナもある。甘い香りがただよいそう。つづいて日本のかつお節工場の紹介
がある。ナマの鰹を,煮て,いぶして,干す,そして「菌」をつけているのだという。
「菌」の効果が大きいそうだ。そういえば,日本では,もともとお米を干して収穫し
ていた。ここで,食卓に並べられた7品が出てくる。ご飯以外は干物かと思いきやご
はんも干物だった。こうして,並べるとみんな干物にお世話になっていることがわか
る。干物のありがたさを改めて感じさせてくれる本である。
2016,03刊 1,400円
『空から宝ものがふってきた!』 内伊藤親臣/著 旬報社
昔読んだ『北越雪譜』(鈴木牧之著=江戸時代の雪国での生活の様子を生き生きと描
いた本)の話や,今でも時々ニュースなどで伝えられる豪雪地帯の様子などからは,
雪国の大変さがどうしても強く印象に残る。しかし,雪も利用の仕方によっては大変有
益な働きをすることも発信されている。1988年には鈴木哲氏による科学読み物『雪はじ
ゃまものか?』(ポプラ社)が出ている。この本では,豪雪地帯の人々も「屋根雪降ろ
しからの解放」など,さまざまな工夫で雪によるマイナス面を補い,雪室などを野菜や
ワインの保存に使って雪国の生活を楽しんでいる話が紹介されている。まさに「雪は天
からのおくりもの」とも書かれている。
この本では『空から宝ものがふってきた』である。まさに雪が〈宝もの〉という見方で,
最近の雪国での取り組みと夢物語がいろいろと語られていく。雪国も,今はもう雪と闘
いながらも新しい価値を生み出す「利雪」が進んでいるとのこと,雪をためておいて夏に
冷房に使う学校も紹介されている。雪についての興味ある話も書かれているが,後は,
この著者が生涯をかけて取り組んでいる「雪のエンジニア」としての取り組みが綴られ
ていく。著者は技術系の大学を出たこともあり,新潟県の安塚町に就職して町長とも意
気が合い,町ぐるみで,雪を新たなエネルギーに変えていく取り組みを次々と考えていく。
めざすは「雪がお金を生む時代」へ。よりうまみを引き出す雪室保存法の確立で,熟成さ
せた野菜やお米が付加価値を生んでいく。冬に雪を保存して夏の冷房に使うことで省エネ
ルギー化に取り組んでいる小中学校の校舎もある。
最新のIT技術と新たな発想力で,これからますます雪国を明るくカラフルに生活するす
べを見つけていくという。これからの決意を語っている。
2016,2刊 1,500円